先ほどの精神療法に続きまして、当院の診療方針として欠かせない要素である薬物療法についてご案内いたします。
薬物療法とは当たり前のことながら文字通りにお薬を服用して頂くことで病の回復を目指す治療を意味します。
精神科領域で扱うお薬を向精神薬と呼びます。向精神薬には、統合失調症を中心とした疾病に適応を持つ抗精神病薬と、うつ病治療を中心とした抗うつ薬、不安障害や睡眠障害などに適応を有する抗不安薬、睡眠導入剤などがあります。
健康な状態であれば、緊張と緩和のバランスが保たれています。活動に集中するとき、私たちの自律神経は集中することができるように交感神経が優位に作動します。つまり緊張と緩和のバランスでみれば、緊張優位の生理現象が働きます。逆に休息を取るとき、最も端的に言うと睡眠を取る際は、リラクゼーション状態が保たれるように副交感神経が優位に働く仕組みがあります。自律神経は私たちの意思で働くものではなく、私たちの欲求に合わせて自律的に作動してくれるのですが、その調和が保たれ過ごしやすさが維持されているのが健康であると呼べるのです。
ところが、メンタルヘルス不調と総称される不健康な状態では、多くが過緊張状態に陥ります。緊張が強まると、振り子が一方的に振り切ってしまうと戻りにくくなるのと同様、自らが休みたい、眠りたいと思っても、その欲求どおりに中枢神経(脳)や自律神経が働いてもらえず、休息や睡眠も思い通りにならなくなり、大変苦しい状態となります。
メンタルヘルス不調の背景には統合失調症、双極性感情障害(躁うつ病)、うつ病、不安障害など多様な疾病類型があげられますが、いずれも顕著な過緊張状態であり、自ら様々にリラクゼーションを試みても自律神経や中枢神経(脳)の機能がうまく働かない状態であるととらえられます。
この場合、軽度の状態であれば認識(認知)の様式を修正したり、ストレス要因を取り除いたりする(例えば休業や休学する)ことなどで病状が改善することもありますが、物理的な負荷を減らしていても改善せず、休息を取りたくても思い通りにいかず、不安や焦りが続き自然回復が難しい状態にまで病状が進行すれば、薬物療法の適応となります。
つまり、向精神薬とよばれる精神科領域で用いられるお薬は、過緊張の体質から緊張と緩和のバランスが保たれる体質に戻り、休息手段の確保を手助けすることで病状が回復するのをサポートする有力な治療手段といえます。
当職は精神科専門医として精神科診療に従事しておりますから、薬物療法の適応があると判断する患者様には、正式に認可され保険収載されている薬物の中から、適切な処方を提案いたします。
もちろん、その服用法については副作用などのデメリットなどについてもご説明しております。
一方患者様の中には、薬物療法の適応があると当職が判断していても、それを避けたいとのご意向が強い方々が一定いらっしゃいます。そのご意向についてはできるだけ尊重するように努めますが、お勧めしているのは決して薬漬けをしたいわけではなく、最短の回復を目指しているからであることをご理解頂ければ幸いです。
疾病の種類や病状の程度にもよりますが、回復により薬物療法の終了を遂げられた方々がいらっしゃるのは言うまでもありません。病状が軽症であればあるほど、必要な薬物は最小量で済みますし、回復や薬物療法の終了も早いです。
また薬物療法を継続したほうが良い場合でも、治療と合わせて充実した社会生活を営まれている患者様も大勢いらっしゃいます。
精神療法とともに薬物療法へのご理解も賜りますよう、何卒お願い申し上げます。