現在大阪府市町村職員共済組合様の嘱託産業医として活動させて頂いております。今回そのご縁もあって、令和5年12月17日に「健康目線のリーダー論」というテーマで、阪神タイガース前監督の矢野燿大さんと、講演の講師役をご一緒させて頂く機会を得ました。
矢野さんが阪神タイガースの監督を担われた時期は2019年から2022年の4年間で、いずれも3位以上のAクラスに入り、歴代のタイガースとしては良好な成績を収められたと思います。縦社会が厳しい野球界の中にあって、矢野監督は選手間と双方向性のコミュニケーションを試みられるなど、指導者として先駆的な取り組みを実践されてこられました。
ところが、2020年から2022年までは新型コロナウイルス感染症流行の影響で、選手やコーチとも一対一での接触機会が大幅に制限され、おひとりで判断せざるを得ない局面を多々ご経験されたそうです。
それに加えて、マスコミ関係者との会見機会も激減したことで、監督しての想いや意向を外部に表現する機会を多く失われたことも教えて頂きました。
閉塞感に満ちた大変な時期に監督業をお勤めになり、大変な苦労をご経験されたことを、ようやくながら認識した次第です。
ところで、話題を職場でのメンタルヘルスに向けますと、その活動はここ15年ほどで厚生労働省が主体となって、啓発活動が随分進んできた印象があります。その一方で、管理職を対象としたメンタルヘルス対策への方策は、残念ながら今一つ進歩が乏しい印象を抱いております。
矢野さんとの講演の中で、矢野監督はひとりひとりの選手を、試合で勝利をさせるだけの対象としてではなく、選手生活後も社会で活躍できるように導くことを信念として臨まれていたそうです。
実際お会いしてみると、とても温かいお人柄の方で、矢野さんがお話を始めると聴衆の方々が瞬く間に和まれていたことに大変感銘を受けましたが、矢野さんがプロ野球の監督 業として抱えるテーマがとても大きく、その前提としてメンタルヘルスが十分に良好であることが必要であると理解しました。監督業もオーナーではないので、著名な立ち位置にはありますが、上司が存在する管理職のお立場です。さらにファンの視線も時に厳しいものがあり、相談相手が存在しない状況では健康を害しかねない印象を受けました。
矢野さんとお話をしながら、現下の日本社会において管理職の方々が置かれた状況の厳しさを連想しました。社会的に孤立した状況に陥り、重責を背負いながらメンタルヘルス不調に遭遇している管理職の方々が、相当数いらっしゃるのではないかと想像します。
その対策としては、私見ですがとにかく孤立化を防ぐことが何より重要です。チームのトップとしては孤立せざるを得ない構造に属しますが、部署を超えたところでの仲間を作って相互に情報を共有することや、時として相談相手になってもらうこと、あるいは家族を始めとしたプライベートの関係で心情を表現する機会を設けることなどが有効な手立てとなりそうです。その機会も得にくい場合は、カウンセリングや医療機関での診療を受けて頂く機会も検討し、ともかく自らを労わる機会を設けることが肝要です。
むこのそう心の診療所は、そのようなこころの負担を強く感じている方々にも真摯に対応できるように努めて参る所存です。
どうぞよろしくお願いいたします。